ISBN:978-4-910205-58-8
定価:\1600+税
作品概要
『本資料が本物ということになれば大発見ということになり、たいへん興味深い資料です』
中江兆民の生誕の地高知市の教育委員会に問い合わせた時の回答である。
著書 兆民老人『文章経国』の遍歴 は、
明治三十四年(一九〇一年)中江兆民が死の床で書いた『文章経国大業不朽盛事』の書は愛弟子幸徳秋水に贈られたが、幸徳秋水が大逆事件で処刑されると、高知の遺族・幸徳富治のもとへ渡る。
この書は、幸徳富治の新聞発刊事業の資金繰りに、堺利彦、野依秀市など人手から人手へと渡り、数奇な遍歴の旅が始まったのである。
この書は、研究者の追跡によると一九六四年頃から行方不明となっていたのだが、五〇年ほどあとになって、軽井沢の私の家で発見される。
二〇〇一年・中江兆民没後一〇〇年を期して発表されたアンソロジーの中で、山泉進著「兆民絶筆『文章経国』の行方」では、「兆民没後百年を記念して、ここにこれだけのことを書いておけば、また『文章経国』の本物が登場する次の場面を描いてくれる人もでてくるであろう」と結んでいる。
この書を発見した私が、まさに「次の場面を描いてくれる人」当事者ではないかと戦慄を覚えるとともに、私に至るミッシングリンクを解明し、広く社会に発表しなければならないという使命感をひしひしと感じたのである。
調査は、早稲田大学中央図書館・特別資料室保管の原本と言われている『文章経国』の調査、愛知県幡豆町の尾崎士郎記念館保管の『文章経国』の調査、また、中江兆民や幸徳秋水の生誕地である高知県では、高知市立自由民権記念館や、県立文学館を訪問し、『文章経国』の調査を行ったのである。
この書の発見地の軽井沢においては、私の家族及びその交流のあった人々の調査を行い、軽井沢を訪問された皇室の関係者、夏期の別荘利用の著名人等々、この書に関連する人々を調査して行ったのである。
そしてこの書にまつわる関係者等をすべて年表に書き出してみると、一九六五年夏、軽井沢においてこの書にまつわるドラマが展開していたことが明らかになったのである。
私の『文章経国』とのかかわりは、軽井沢での研修会事務局の業務に端を発し、宿命ともいえる人々との出会いによるものと思えるのである。
自宅の『文章経国』の額を見上げるたびにこの書は、文章を愛する人々に勇気を与える兆民老人からの贈り物のような気がしてならない。
著者紹介
栁下 誠 やぎした まこと
1943年疎開先の千葉県に生まれる。翌年父死亡、戦後の混乱のなか幼少期を過ごす。
進学のため14歳にして東京に出る。専業エンジニアリング企業に入社、モーレツ社員時代に各種海外プロジェクト業務を経験。産業カウンセラー、キャリアカウンセラー、心理相談員等経験。
無煙焼鳥機を開発しCEマークを取得して輸出、仲間とフランスに焼き鳥店を開く。好奇心旺盛、多趣味、マルチ人間。外洋クルージング計画は東日本大震災の津波で所有艇を損傷し断念したが、後にカリブ海BVIから南太平洋タヒチ島まで120日間クルージングを果たす。
現在は軽井沢で終活をプログラム化して遂行中。