ISBN:978-4-910205-00-7
定価:\1600+税
あらすじ
二〇四八年、内閣による消費税十%へ値上げ、その後も引き続き十五%まで引き上げし経済不況に陥った。少子高齢化が進み、人口も八千万人まで減少した。
国民は経済的にも二人以上の子どもを育てることが出来なくなった。一方、晩婚化や未婚率上昇により少子化が更に進み、対策としての人工受精が増えた。その結果多胎数が増加、政府は打開策として国費を投入し巨大な特別成育施設(グロースタウン)を建設した。
政府は一卵性双生児や多胎で生まれ、経済的にも困窮が予想される場合は、一人を残して、残りはグロースタウンに預け、二十歳まで成育する法案を成立させた。
久光結衣は一卵性双生児の片割れとして生まれ、苦労の末東大法学部へ入学した。一方、もう一人の一卵性双生児はグロースタウンに預けられ阿藤真木と名付けられた。真木も、偶然にも東大法学部へ入学した。卒業後、結衣は検察官、真木は弁護士になった。
二〇四八年十一月、群馬県太田市の児童養護施設で入所者十二名の殺傷事件が起こった。犯人は竹内洋二、二十八歳。グロースタウン出身で。障害者は何の生産性もなく、生きていても国民のためにならないとの優生論理を展開。結衣は検察官としてこの裁判を担当し、竹内は死刑判決を受けた。
二〇四九年四月には特養「ほのぼの」で三十二人の終末期老人が薬物により殺害された。犯人はグロースタウン関連施設で、施設長の指示の元、積極的安楽死と称して死期を早められた。この二つの事件はいずれもグロースタウンの優生思想から生じたものであった。
一方、グロースタウンではヒトクローン作製を秘密裏に行っており、百九十八人のクローンが作製された。
クローンの約三十%程度にミトコンドリア病が発症していたことが判明し、大々的に報道された。原因が不明のまま、政府は配偶者間に限ってクローン作製を可能とする法案を成立させた。同時期に医学雑誌ランセットにミトコンドリア病の原因はドナーの核DNAとレシピエントのミトコンドリアDNAの不一致から生じることが報告された。最高裁での最終判決はその論文が影響して原告側の申し立ては棄却された。
しかし、統括はミトコンドリア病発症の責任をとり自殺した。統括の告別式で、黒い上下の喪服スーツと黒いネクタイをして、皆同じ顔と身体付きをした年齢十歳から二十歳の男が、各年齢に八人横並びで焼香していた。まるでロシア人形のマトリーシカのようであった。
著者プロフィール
井埜利博(いの としひろ)
昭和26年1月25日生:68歳
【職業】
医師・医学博士
【経歴】
昭和五十二年 順天堂大学医学部卒業
現在、医療法人医療介護施設 いのクリニック理事長・院長
群馬パース大学客員教授 熊谷市医師会看護専門学校校長