ISBN:978-4-911093-40-5
定価:\1600+税

作品概要

(プロローグ「なぜ都構想は提案されたのか」より)
平成20年~21年、「大阪府市水道事業統合協議」が行われた。大阪に大きな水道事業が二つあることによる無駄をなくしたいとの思いからであったが、協議は決裂してしまう。その翌年の平成22年、東京では区部(23区)と三多摩地区との水道事業の都営一元化の最終段階とも言える第十次統合が実施される。都営一元化は昭和48年の第一次統合でスタートし、令和4年現在で計画対象29市町に対して26市町が都営水道となっている。
東京と大阪で水道事業の改革に踏み出したが、対照的な結果となった。東京ではできたが、大阪ではできなかった。その結果、どのような差が生じたか。最もわかりやすいのは地域の水道料金の格差である。東京で一元化を始めた理由は、区部と三多摩地区との水道にまつわる格差、特に水道料金の格差の是正のためであった。一元化された三多摩地区市町村の水道料金は、区部の水道料金と同一になっている。対して、現在の大阪府の市町村別水道料金には格差が残っている。統合協議が合意されたとしても、直ちに格差がなくなるわけではなかったが、将来へ向けての期待があった。
大阪では、統合協議が決裂した平成22年1月に「大阪都構想」が発表される。

都構想が提案された理由は数多くあろうが、最後に引き金を引いた形になったのが「大阪府市水道事業統合協議」の決裂ではなかろうか。東京の「都営一元化」が成就するまでの経緯と大阪の「統合協議」が決裂するまでの経緯の調査をすることにした。成就した東京と決裂した大阪を比較することで、何がどう違うのかが明確になる。なぜできなかったのか。そして都構想で何が変わるのか理解できると考えた。調査を進めるに従って、それだけでは足りないと思うようになった。自治体にとって水道事業とは何なのか。東京と大阪のように大都市であることは水道事業にどう影響するのか。「都」であることはどういうことで、「市」とはどう違うのか。調査対象を広げる必要があった。結果的に歴史を遡ることになった。
おかげで、東京が成就して大阪が決裂したことについて大いに納得することができた。都構想が提案されるまでの「歴史的経緯」を辿ることで、東京と大阪の違いについての理解がより深まった。東京の成就と大阪の決裂はなるべくしてなった、と言っても良い。都構想が実現すれば、大阪の水道も統合できる。遠回りだが確実である。水道以外のメリットも見込まれる。都構想以外に良い手が見当たらない。だから都構想は提案されたのである。

著者紹介

堀田弥山(ほりた・みせん)
昭和37年、愛知県で生まれる。
昭和60年、大学卒業後に複合機メーカーへ就職。制御系エンジニアとして、主に複合機のコントローラ技術開発に携わる。
令和3年、メーカーを退職。自由人となる。