ISBN:978-4-910205-99-1
定価:\1400+税
作品概要
嵐芳三郎は八十五年以上の歴史を持つ劇団の舞台役者。日本では珍しい給料制の劇団で、毎年歌舞伎作品を上演している唯一の劇団だ。芳三郎はその中核で活躍する役者だが、芝居への情熱と劇団を愛する気持ちは誰にも負けない。
毎年恒例の五月国立劇場公演では、劇団が総力を挙げて新作歌舞伎に挑戦する。その脚本、演出を担当するのは、劇団からの度重なるオファーに応じてくれた、日本を代表する映画監督、山口陽一だ。舞台演出も数多く手掛ける、山口監督が書き下ろした作品は、落語を元に作られた『長屋珍騒動』という芝居。主演の「紙屑屋の久八」は芳三郎が演じる事になった。
徹底したリアル演技を追及する山口監督の厳しい稽古に、必死に食らいついていく芳三郎と劇団の面々。その甲斐あって舞台は大成功を収める。
しかし、この劇団の役者の仕事は芝居をするだけではない。劇団員の給料制を維持するために、芝居の無い期間は背広にスーツ姿となり、チケットの販売活動に飛び回る。一枚のチケットを売ることの苦労を、仲間と共に分かち合いながら、次の芝居へと入っていく。
秋から始まる新作は、本格時代劇「武士道の果てに」という作品。脚本演出は、テレビ時代劇の脚本ではヒットメーカーと言われ、舞台の演出も数多くある真木孝之。この作品でも加納典膳という主演を務める芳三郎は、真木から決定的な指摘を受ける。解決できない苦悩を抱えながら、日本が世界に誇る時代劇と言うジャンルに真摯に向き合っていく。
舞台役者、嵐芳三郎が自分自身を主人公にし、劇団を守る為、芝居に打ち込んでいく役者の姿を描いた物語。
著者紹介
1965年、六代目嵐芳三郎の二男として、武蔵野市吉祥寺に生まれる。桐朋学園短期大学部演劇専攻科を卒業後、21才で劇団前進座に入座し役者の道を歩み始める。以後、立ち役として歌舞伎から時代劇、現代劇まで座の舞台で活躍する一方、他劇団の公演やNHK大河ドラマ、映画にも出演。2010年5月、『切られお富』井筒与三郎にて、七代目嵐芳三郎を襲名。演劇活動を続ける中で、芝居の素晴らしさを多くの人に知ってもらいたいと、自身の経験を元に小説「受け継ぐべきもの」を執筆。主な舞台に、『女殺油地獄』河内屋与兵衛、『佐倉義民伝』木内宗五郎、『東海道四谷怪談』民谷伊右衛門、『薄桜記』丹下典膳、『裏長屋騒動記』紙屑屋の久六、『南の島に雪が降る』加藤徳之助、舞踊『操り三番叟』など。外部出演に『子午線の祀り』源義経、『雁の寺』慈念(主演)、『藪原検校』杉の市(主演)など。